日本情報科教育学会は、皆様のご支援とご協力を得て、2007年12月に設立され、本年で19年目を迎えることになります。これまで学会を支えてくださった多くの先生方、研究者の皆様、そして全国の教育現場で日々「情報」の授業に向き合っておられる先生方に、心より感謝申し上げます。
本学会は設立以来、情報科教育の学術的研究を進めると同時に、現場で“情報”を教える先生方を支えることを大切にしてきました。そうした中で、情報科教育を取り巻く制度や環境は、この十数年で大きく前進してきました。現行の学習指導要領の下で、「情報Ⅰ」は共通必履修科目としてすべての高校生を対象に実施され、発展的な選択科目である「情報Ⅱ」の重要性も広く認識され始めています。さらに、2025年度からは大学入学共通テストに新たな教科として「情報」、科目として「情報Ⅰ」が導入されました。大学においても文系・理系を問わず、数理・データサイエンス、AIに関するカリキュラムが展開されるなど、情報科教育は、学校教育全体を支える基盤として位置づけられつつあります。
こうした動きは、決して突然生まれたものではありません。高等学校における「情報」という教科は、2003年度(平成15年度)にスタートしました。本学会は、それにあわせて準備期間を経て2007年に設立され、以来、情報科に関わる多くの関係者とともに、その意義と必要性を社会に問い続けてきました。長年にわたり提唱してきた「情報」の大学入試への導入が実現したことは、その歩みの一つの到達点と言えるでしょう。そして今や、「情報」という教科で身に付ける資質・能力は、高等学校のすべての科目の学びを支える、欠くことのできない基盤的な力であると考えられます。
一方で、こうした制度的な整備が進んだからこそ、私たちは次の問いに向き合う段階に入っています。
情報科はいま、拡大期を越え、その真価が問われる「成熟期」に入ったと、私は受け止めています。どの単元を履修したか、何を教えたかではなく、その学びを通して、生徒がどのように問題を発見し、迷い、試行錯誤し、情報と情報技術を活用して解決へと向かったのか。その思考と行動の軌跡こそが、これからの情報科教育の価値となります。
この問いは、近年の生成AIをはじめとするテクノロジーの急速な進展によって、いっそう切実なものとなっています。多くの作業が自動化される時代において、情報科教育の役割は、単なるICT活用や技術習得にとどまりません。膨大な情報の中から本質を見極め、他者と協働しながら問いを深め、よりよい解を探究していく力を育てることが、これまで以上に重要になっています。
こうした問題意識を背景として、本学会では、文部科学省が公表した「教育課程企画特別部会 論点整理」に対し、学会として意見表明を行いました。そこでは、生成AIを含む情報活用能力を、すべての児童生徒にとって不可欠な基盤的素養として位置づけるとともに、小学校から高等学校までを通じた体系的・連続的な情報教育の必要性について、現場の実践に根ざした立場から考えを示しました。これは、制度の方向性に対する単なる賛否ではなく、情報科の学びを現場で支えてきた学会として、いま引き受けるべき責任であると考えています。
成熟期に入った情報科では、学習評価の在り方もまた、避けて通れない課題となります。完成した成果物だけでなく、思考の過程や判断の揺れ、試行錯誤の跡をどのように見取り、次の学びへとつなげていくのか。評価は結果を確定させるためのものではなく、学びを前へ進めるための支援として再定義される必要があります。
しかし、その実践を担う情報科教員の多くは、学校に一人で配置され、授業づくりや評価に悩みながら日々向き合っています。制度や方針が示されるほど、現場では「この授業でよいのか」「この評価で生徒の成長を見取れているのか」という問いが、より切実なものになります。そうした孤立しがちな状況を少しでも支えるために、本学会では、研究会や全国大会に加え、日常的に学会の知や実践に触れられる取組を進めています。その一つが、情報科教育連携委員会を中心に企画・運営している JAEIS Podcast です。JAEIS Podcast では、完成された成功事例だけでなく、迷いや試行錯誤の過程も含めて、現場の教員自身の言葉で語られています。
現在は、情報科教育連携委員会、情報科教員研修委員会、情報科入試委員会の三つの重点委員会を設け、こうした草の根的な取組を、より継続的・組織的に進めています。一つひとつの活動は小さく見えるかもしれませんが、それらがつながり、重なり合うことで、情報科教育を支える大きな力になると信じています。
情報科の未来は、誰か一人が設計図を描いて完成させるものではありません。一つひとつの授業、一つひとつの問い、一つひとつの共有の積み重ねによって、少しずつ形づくられていくものです。本学会が、その歩みを共にする拠点であり続けること。そして、会員一人ひとりが「ここから、またやってみよう」と思える場であること。それこそが、成熟期を迎えた情報科において、JAEIS が果たすべき役割であると考えています。
今後とも、本学会の活動にご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2026年1月
日本情報科教育学会
会長 森本 康彦
